実際のところどうなの?映画「100日間生きたワニ」レビュー
Twitter発の漫画「100日後に死ぬワニ」の映画版「100日間生きたワニ」見て来たのを感想をば。
…映画を鑑賞する前に先にこの本作を見た人たちの感想が気になって見たり読んだりしていたのですが良い評判は少なく
- 見る五億年ボタン(5億年何もない空間で過ごすのと同じくらい退屈で苦痛であるということの例え)
- 懲役60分
- 絵が紙芝居
- カエルが邪悪
- 配信なら良いが映画館で見る価値はなし
…等とにかく悪評が目立ちがちでした(^_^;)。
私がこの映画を見たいと思ったのは、純粋にあの4コマ漫画が映画になったらどうなるのか興味があったのと、何かと話題になる本作の感想記事を書きたかったからです。ちなみに平日朝からの上映という事もあり、この映画を見に来た人は私を含めて4人しかいませんでした(^_^;)。人が少なすぎてちょっと怖かった。映画館内、薄暗いし。
で、実際に見た感想なのですが…。
- 前半の原作再現パートは割と良かった
- 映画オリジナルキャラクターのカエルくん…いない方が良かったのでは?
- 絵が動かなすぎるのでもっと動かして欲しかった。
でした(^_^;)。以下、詳しく解説します。ネタバレがあるので閲覧には気を付けてください。また、この記事を元に本作叩きのネタにする事はご遠慮ください。
100ワニ映画は退屈なのか?
悪評として騒がれている「退屈」に関しては、まぁ、ワニくんたちの素朴な日常を動きの少ない映像で見せているのでそう思う人がいても無理はないかなという印象です。映画を見る人って(映画を見に行く過程も含めて)「非日常」を求める場合が多いと思うのですが、本作で描いているのは「誰にでも有り得るかもしれない素朴な日常」でしかないので、「非日常を求めたはずが、日常の延長のようなものを見せられた」という不満を抱いた人も多かったのかもしれないと思います。
「原作再現」という視点で見れば悪い内容ではなかったと思います。とにかく監督たちが「リアリティ」にこだわって映画を作っているのは伝わって来ました。キャラクターは擬人化された動物だけれど自分の身近にいそうで、彼らのセリフ回しや持つ空気もすごく自然でしたし、音響も(他の映画の例に漏れず)臨場感のあるものでした。
オリジナルキャラクターのカエルくんは必要だったか?
後半は映画オリジナル展開として「ワニくんの死後」が描かれます。
で、そこに登場するのが映画オリジナルキャラクターのカエルくんです。妙に馴れ馴れしい彼を最初は煙たがっていた皆でしたが、彼もまた友達を亡くし、その寂しさからこの町へやって来たのでした。本当は寂しいカエルくんの胸の内を知ったネズミくんは彼と打ち解け、その事をきっかけにワニくんの死後、疎遠になっていた仲間たちが再び集います。
ワニくんの死後、悲しんでいた彼の仲間(とくにネズミくん)の心をカエルくんが癒したというような描写だったのですが、それが多くの視聴者の反感を買ってしまったようです。
以前、クリエイターの卵向けの雑誌に、漫画家の卵が描いた「彼氏が事故で死んでしまい、その悲しみを乗り越え新しい恋人を作った主人公」という漫画が掲載され、プロによる添削曰く
「現実は確かにこの通りだが、読者が見たいのはウソ、フィクションだ。読者が見たいのは死んだ恋人を忘れることなく再生する主人公の姿なんだ」
「代わりの恋人を見つけるなんてもっての他」と言わんばかりのコメントでしたが、カエルくんの叩かれっぷりを見るに、その指摘は多分この映画にも当てはまるのではないかと思いました(^_^;)
カエルくんを出さずに、「ワニくんの死後、立ち直る仲間たちの姿」を描いていれば本作の評価はもう少し上がったのかもしれません。
絵が動かない
「紙芝居」はさすがに言い過ぎですが、そう揶揄されても仕方がない位絵が全く動かないシーンが何秒かあったのも事実です。
開幕時の桜が舞い散るシーンは美しかったのですが、それ以外はほぼキャラと目と口元が動く程度映画はおろか地上波で配信されている一般的なアニメより絵の動きが少ないと思います。あまりの動きの少なさに「ぎこちない」印象さえ抱きました。
あと、同人漫画のように顔アップのカットが多い(^_^;)
本作にアクション映画のような激しい画面は必要ではないと思いますが、「もっと生き生きと動くワニくんたちの姿が見たかった」というのが本音ではあります。
どうしてこうなった…
…と、いうわけで「100日間生きたワニ」は近年まれに見る残念傑作映画でした!
感動のあまりパンフレットまで買ってしまいました/(^o^)\ お値段820円。
写真だと分かりにくいですが、現物には凹凸(レリーフ?)があり、凝った装丁になっています。
パンフレットにも作り手たちのこだわりが感じられるこの映画がどうしてこんな残念な事にどのような意図で制作されたのか、その答えはこの中に書いてありました。
パンフレットで上田監督は
「素朴な邦画のようなアニメ映画を作りたい」
とコメントしており、まさにその狙い通りの作りになったと思います。ただ、その狙いが「観客の求めていたものとは違っていたのかも」しれません。
つまり絵がなかなか動かないのも、ネットで言われているような「手抜き」ではなく、監督なりのこだわり、狙いがあった結果という事です(勿論予算の問題もあったのかもしれませんが)。
また、
最初の脚本は100日間を主として、最後に後日談がつくものだったんです。それを書き上げた直後に新型コロナが深刻化して、大幅に書き直しました。
と書かれており、脚本も考え抜いてこの内容にしたことが分かります。もしかしたらその最初の案にはカエルくんはいなかったのかもしれませんし、今となっては最初に書かれた方の脚本で映画を見てみたかったかもしれません(^_^;)
おわりに
映画には独自の演出やアレンジが加えられており、「なるほど」と思える部分もありました。例えばワニくんたちの通う「極真ラーメン」は原作だとワニくんが生きている内に閉店してしまいますが、映画だとワニくんの死後に閉店の場面が描かれており「もうワニくんと一緒にラーメンを食べられない」ネズミくんの悲しさを表すメタファーとしていい味を出しておりました(ラーメン店だけに…)。
映画からは「リアルな日常の空気」が漂い、パンフレットからは監督の「本作へのこだわり」が伝わってくるのですが、それが観客の求めていたものとはちょっと違ったのかもしれない、というのがまぁ残念なところです。
個人的にはこの映画を早起きして見に行った甲斐はあったとは思いますが、人にはちょっとオススメし辛いかなぁ。ストーリーは、平凡過ぎて「普通」。とにもかくにも「アニメなんだからもっと動く絵を見たかった」というのが、本音ではあります。
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