パンズラビリンス感想2(キャラクターに弱点は何故必要か)

前回の続きです。ネタバレ有り。

大尉とオフェリア、二人の結末

大尉の妄執

オフェリアの義父である大尉は独裁者(現代日本風に言えばDV夫)であり、本作の不幸の元凶とでも呼ぶべき人物です。

臨月の妻の意思を無視して、ゲリラ戦真っ只中の地域の家に移住させたり、車椅子で行動させようとしたり、母と娘の面会を禁じ仲を引き裂こうとしたり、自分の言うことを聞かなかった周りの人物達を射殺したりとまさに「やりたい放題」です。

作中の人物だけでなく、見ているこっちも「こいつさっさと○ねばいいのに」と思えて来ます(^_^;)。

クライマックスで息子をさらったオフェリアを殺そうと追いかけて来る彼の姿はまさに「恐怖」の一言。

「正気を失った父親が家族を殺そうとして追いかけてくる」という展開は「シャイニング」も同じですが、ワケも分からず斧を振り回しているそちらと違って、大尉はサイコパス的な明確な悪意と殺意を持ってオフェリアを追いかけてくるので迫力が違います。

観念したオフェリアが弟を大尉に差し出すと、彼はそのまま躊躇なく発砲。オフェリアの命を奪います。

1ミリも同情の余地の無い「絶対悪」として描かれている大尉ですが、面白いのはそんな彼にも「人間らしい弱点」の描写がところどころにある事です。

1つは時計…彼の父親に対する思いです。

彼の父親がどの様な人物だったのか詳しい描写は無いのですが、父親の戦死した時刻を大尉は聞かされており、「自分も父の様に戦争で死に、その時刻を息子に伝えねばならない」という信念、悪く言えば妄執に捕らわれており、そのストレスやプレッシャーが彼が周囲の人達に辛く当たる一因になっているのだろうと予想できます。また、自分が周囲の人を粗末に扱うのと同じように、彼自身もまた父親からその様に扱われて育ったのかもしれません。

2つ目は女性を見下しているという点です。そのせいで手痛いしっぺ返しに遭うのでした。

オフェリアを殺した後は自らもゲリラに囲まれ、自分の死んだ時刻を息子に伝えて欲しいと懇願しますが、オフェリアの家政婦から「あなたの名前さえ教えないわ」と一蹴され、大願成就することなく射殺されます。

まさに「因果応報」です。

オフェリアの選択

オフェリアの方は、「魔法の王国に帰るために弟をパンのもとに連れて行く」というのが最後の試練でした。

大尉の目を盗み、なんとかパンのもとへとたどり着いたオフェリアでしたが、パンから「弟を差し出せ」と言われて躊躇します。

何故ならパンの手には大きな杭が握られていたからです。

「魔法の王国への扉を開くのには無垢な者の血が必要。そのために弟には少しだけ血を流してもらうだけだ」

とパンは言いますが、その口調は荒々しく、弟を渡せば言葉とは裏腹に手にした杭で彼を殺してしまいそうな雰囲気です。

オフェリアは弟を庇い、決してパンには渡そうとしません。そのまま大尉に追いつかれ、射殺されてしまいます。

最後の試練に失敗し、現実世界でも命を奪われてしまったかに思えたオフェリアでしたが、「彼女自身の無垢な血」を持って扉は開かれ、彼女はついに王女として魔法の世界へと帰る事ができたのでした。

出典:https://gigazine.net/news/20180326-7-things-about-pans-labyrinth/

前回の記事に書いた通り、オフェリアは一度ペイルマンの迷宮にて「王女の試練」に失敗しています。

彼女も決して「完全無欠の善人」ではなく、時には甘い誘惑に負けてしまう弱さもあるという事です。

しかしそんなオフェリアだからこそ、最後に正しい選択「自分の保身や利益のために他人の生命を犠牲にしない」が出来た事が「尊い」のであり、「王女」として「魔法の国」に帰る資格があるのです。

©SEGA

…ちなみにぷよシリーズには「弱点が無い」と言われるスーパー中学生がいるのですが、もし大尉やオフェリアが彼の様な「弱点の無い完全無欠の悪党or善人」だったとしたら、どちらにもあまりリアリティが感じられず、面白い映画にならなかったのではないかと思います。

魔法はオフェリアの魂を救ったが、現実は?

過酷な現実を魔法で乗り越えるという事は現代日本においては有り得ないでしょう。その為、現実主義者は「魔法の世界は存在せず、本作は現実で生き延びる事ができなかった少女が抱いた都合の良い妄想」という風に思うらしいのです。

©SEGA

しかし、たとえフィクションでも魔法の世界に憧れを抱き、フィクションを通して魔法の世界を身近に感じて来た者にとっては本作のラストは「ややビターではあるものの、願いの叶ったハッピーエンド」だと思います。

もっと卑近な例で言えば「悪い事をすれば死後地獄に落ちるし、良い行いをすれば天国に行ける」的な話です。

散々酷い事をした大尉は地獄に落ちる前の死ぬ間際にその報いを受けていますし、「正しい行い」をしたオフェリアは死後、魔法の国へ帰る事ができました。多分、彼女にとってはあのまま地上で生き続けるより、その方が幸せだったのではないでしょうか?

そんなワケでパンズラビリンスは、お話も比較的分かりやすく、「勧善懲悪」というか「因果応報」を描いた良質なファンタジーだと思いました。

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